マービン・アンテルマンの『トゥー・エリミネイト・ザ・オピエイト』(TO ELIMINATE THE OPIATE)はイルミナティ研究の画期をなした書である。
アンテルマン以降、ユダヤとイルミナティは峻別される事となった。それまでは、イルミナティもフリーメーソンも、すべて「ユダヤの陰謀」として括られていたのである。それを、イルミナティ研究を通しての歴史的、国際的陰謀の解明をもって新たな地平を切り開いたのがアンテルマンの仕事であったと言って過言ではない。
アンテルマンはアメリカで黒人過激派によるユダヤ人への攻撃を体験した。そして、これに対抗しようとした時、同じユダヤ人でありながら、リベラル派が黒人過激派に味方した事に驚き、憤った。ユダヤ人の生命財産の侵害に、ユダヤ人が荷担したのである。これは比喩ではなく、実際に血が流されたのだという。
アンテルマンは自衛の戦いを開始した。その一環として、リベラル派の思想研究が行われた。情報戦である。そして、それがイルミナティ研究にアンテルマンを導いたのである。アンテルマンの研究は陰謀論趣味といった次元のものではなく、今日明日に必要な、現実的実際的な戦いの産物だった。
アンテルマンは、イルミナティがその啓蒙主義をもってユダヤ教を破壊しようとしたとする。神よりも理性という啓蒙の主張は信仰の破壊でしかないというわけである。
そして、ユダヤ教の破壊は、ユダヤ教の聖書を聖典とする事でユダヤ教を起源とするキリスト教、イスラム教の破壊につながるという。イルミナティは、キリスト教にもイスラムにも浸透しているというのである。
イルミナティの啓蒙主義は、フランス革命のジャコバンを生み出し、ユダヤ教改革派を作り出し、また、保守派も作り出し、正義者同盟(ブント)を作り出した。
正義者同盟は共産党の前身であったが、彼らはカール・マルクスを雇って共産党宣言を書かせたのだという。マルクスが改宗ユダヤ人でありながら反ユダヤ的言論活動を行った事も触れられている。これは事実である。
このあたりは現在ならさほど驚かされないが、本書が発表された一九七四年には、アメリカでさえずいぶんと刺激的だったろう。だが、マルクスや、マルクスの周辺の怪しさはいくらでも解明されてしかるべきなのだ。
マルクスの名で、あまりにも多くの血が流されて来た。それなのに、そのありようはあまりに伝説化されすぎて来た。一例を挙げれば、マルクスの著書には、その死後、エンゲルスをはじめソ連の担当者といった多くの者の手が入っているが、それすら長い間曖昧にされて来た。主著である「資本論」も、第一巻はマルクスの手になるものだが、第二巻以降は、死後にまとめられたという事情もあって、エンゲルスによって大幅に手が入れられている事が今では明らかにされている。これについてマルクス主義者たちはオリジナルが歪められた事を不見識と憤慨するかもしれないが、憤慨する方が不見識かもしれないのだ。つまり、マルクスの書いたものがオリジナルとして崇め奉られるたぐいのものではなく、用を足すためには手を入れてもいいようなものとして成立していた可能性がある。「共産党宣言」が雇われ仕事だったというのは、そういう事につながる。実際、ソビエト・ロシアでは、用を足すためにマルクスを十二分に活用して来た。人道や良心を踏みにじるために、マルクス主義と(ボルシェビキ)革命は便利な道具であり続けた。それをレーニン主義と言うが、スターリンもトロツキーも、その他の後継者も、みなレーニン主義だった。そして、マルクス主義は、そうしたレーニン主義と一揃いになって実用に供されなければ、無意味な教条でしかないものだった。
マルクス主義の悪はすでにわかっている。しかし、それがイルミナティの陰謀に発している事は解明されつくしていない。アンテルマンの仕事は、進歩派との戦いから始まり、マルクスなど通り越し、はるかに深く、歴史に突き刺さって行った。